「普通」に生きるべき?コンビニ人間について(2021)

作家村田 沙耶香の「コンビニ人間」は2016年に出版され、まず日本で人気になった小説は次々と約30の外国語にも翻訳された。

2018年に竹森ジニーによって英語に翻訳されたが、私はちょうどその時イギリスに帰ってきた。どんな本屋さんに入っても「Convenience Store Woman」が真中の「話題の本」みたいなテーブルに載せられたことは覚えている。それで旅行でパリに行った。本屋さんを訪れたら最初に目に入った本は「La fille de la supérette」という、フランス語版だった。

日本をすでに恋しくなっていた私はオリジナルの日本語版を読んだ。最初のページに書かれたコンビニで流される音-ドアのチャイム、店員さんの声、新商品の宣伝などーを読みながら、東京にいた時当たり前だと思っていたものの遠さを感じた。

村田 沙耶香の鮮明な描写やユーモアのセンスはとても好きだったが、特に好きだったのは彼女の世界のとらえ方。そして戦い方。コンビニ人間では、我々が思う当たり前のことや社会に対して質問をするのだ。

「普通でいることというのは何?」

「普通に生きることって重要なのか?」

(因みに、私にとって宝物の日本語の本に、ハリボちゃんも興味を持った...)

1.現行犯で捕まった原稿犯人 2.汚れた本に包んだ、包み紙表紙 3.次の犯罪を企画中

主人公の古倉恵子さんは「普通」の人と違っている。小さいころ、なくなった小鳥を見た周りのクラスメートが泣いている時、彼女だけは泣かない。「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」とお母さんに提案する。

36歳の古倉さんはできる限り「普通」の人を演じようとするが、なぜかうまくいかない。一人暮らしで、18年間コンビニでバイトをしている彼女自身は満足しているが、周りの人はその人生のやり方を疑問に思う。30代の後半の女性として、古倉さんは彼らにとって主に二つの「間違い」をしている。

先ず、独身でいること。

相手を望んでもいない古倉さんは友達に会うたびに、「まだ誰かいないの」みたいなことをぐいぐい聞かれる。交際相手がいた方が普通だと友達は信じていて、彼女にまで彼らが思う普通さを押し付けようとする。婚活を勧めたり、仲人になろうとしたりして、自分たちが判断した良くない状態を直そうとする。

もっと詳しく言えば、古倉さんの「間違い」はただ独身でいることより、幸せな独身でいることだと思う。彼女はシングルでいることを直そうとしない。

小説を読んで思ったが、シングルでいることはよく(日本でも、イギリスでも)不完全で臨時な状況だと思われる。頑張れば乗り越えられる状況。乗り越えれば完成したと言えること。子供の頃見ていたディズニーの映画を思い出した。大体こんなながれだった:

1. 若くてきれいなお姫様(白雪姫・眠り姫など)がいる

2. 若くてきれいなお姫様は年配できれいではないウィッチのような女性に呪われる

3. イケメンな(白馬に乗った)王子様が現れ、姫様を救う

4. お姫様と王子様は結婚する

5. めでたしめでたし – ‘and they lived happily ever after’

つまり、結婚すれば話が終わる。結婚することで、人生のストーリーを完成させる。

古倉さんはそう思わないし、私もそれに納得できない。カップルでいること自体は達成や人生を完成させるようなことではないと思う。相手を望んでいない人に対して、シングルでいることは臨時で、終わらせるべきな状況ではない。人による。二人でいたい人いれば、一人でいたい人もいる。もっと大人数でいたいポリアモリーの人たちもいる。そして幸せな夫婦いれば、幸せなシングルもいる。正解はなく、ただ人による。

私の仕事はDVの被害者をサポートすることだけれど、それは考え方に大きな影響を及ぼすかもしれない。しかしよく思うのは、一番大事なことは誰かと一緒にいるかいないかということではなく、かえって誰かと一緒にいるかいないかという選択肢が自由だということだ。


古倉さんの二つ目の「普通じゃない」と思われるところは、18年間コンビニで仕事をしているということだ。周りの人はその点も不思議に思い、自分たちが判断するまっとうな仕事をしていない古倉さんに絶えず質問する。

数回か、古倉さんは妹に相談する。友達の質問にうまく答えるには何を言えばいい、みたいなことを彼女に聞く。そこで「体が弱い」という、コンビニで働いていることを彼らに説明できるような言い訳に思い当たる。何よりも、自分の選んだ人生を他人に説明するために言い訳をつくらないといけない古倉さんに感動した。その友達が、悪いことのしていない、ただコンビニでいたい古倉さんを、ほっといて欲しかった。

ある友達と昔あった会話を思い出した。その人は年に一回しか休みをとらなかった人だった。それを初めて聞いたら、私はびっくりした。「なんで?」としつこく聞いた。彼の答え? それは私の人生のやり方だから。悪気があって聞いたわけではないが、何回も聞かれたはずのことをまた聞いた私はもしかしたら古倉さんの友達に似ていた。

コンビニ人間はなぜ世界中人気になったのか?多くの人は古倉さんみたいに、期待されているまっとうな人間とは違うと思っているからかもしれない。社交的なプレッシャーをできる限り無視して、他の人に傷をついていなければ自分の好きな方法で生きていても良いというメッセージをこの小説からもらったのはきっと私だけではない。

*

長くなってしまったブログをここまで読んで頂いた方がいれば、ありがとうございます!よかったら、是非コメントやシェアをしてください :)

Previous
Previous

むらさきのスカートの女(2021)

Next
Next

日本を出て恋しくなる20のもの(2021)